●とんでもない話
そのとんでもない話とは、こうだ。
3年前、私とカメラマン氏は、バンフでB&B(ベッド&ブレックファースト)の取材にあたっていた。そこで、ジャスパーから来た日本人の女の子に会ったのだが、彼女が泊まったPrivate Home Accommodationの信じ難い話を聞いたのだ。
その人はワーホリで来ていた20代半ばくらいの女性で、英語は上手だったので、一人旅でも何の問題もないだろうと思えた。
ジャスパーに着いて、ガイドブックで見当を付けておいたAccommodationを探しながら歩いていた彼女。その通りは、Home Accommodationが並んでいる通りだった。すると、目的の宿に着く前に、別の家から一人のおじさんが声をかけた。部屋を探しているなら、空いているから泊まらないか、というのだ。日本人の宿泊客もいるという。彼女は部屋を見せてもらうことにした。
家の外観も部屋も可愛いかった。Accommodationの名前は、男性と女性の名前が付いていて(ジャスパーでは、◯◯'s Accommodationのようにオーナーの名前が付いている所が多い)、中におばさんもいたので、夫婦で経営しているのだろうと思った。料金も安かったので、ここに決めた。
夕食を外で取って宿に戻ると、おじさんが来て、シッティングルーム(居間)でみんなでワインを飲んでいるから、一緒にどうかと誘われた。行ってみると、日本人の女の子が2人いた。ところが、飲み始めてから、雰囲気がおかしいことに気付いた。居間のテレビでは、エッチなビデオを映していたのだ。おじさんはワインをさらについで、これを飲み終わるまでは部屋に戻っちゃダメだと言った。先の女の子2人は、ただおどおどとそこにいるのだという。
そこまで聞いて、私たちは叫んだ。
「なんで断わってすぐ部屋に戻らなかったのよォー!?」
誰だってそう思うよね。
ところが、彼女なりの理由もあり、先に日本人の子たちがいたから安心していたとか、ワインをご馳走してくれると言った時点で「いいおじさん」と思ってしまったとか、断わってすぐ部屋に行ったら何かされるんじゃないかと思った(鍵は彼も持っているから)とか、およそ冷静になっている時には思いもよらないような心理状態だったのだ。
それにしても、もう私たちは情けないやら、腹立たしいやら・・・
だいたい3人もいて誰も何も言えなかったのか・・・
あとの2人はどうしてたの?と聞くと、それまではおとなしく見させられており、彼女が行くと「困ってるんですよー」と訴えたのだという。う〜ん・・・
身の危険は感じなかったの?と聞くと、それはなかったというのだが、こんなに危ないことはない。その油断が、かえってもっと危ない事態を呼ぶことにもなりかねないのだ。
彼女はワインをなるべく早く飲もうとしていたが(真面目にそんなことしなくてもいいのに)、その間にもおやじは「もっとビデオを見れば」とか何とか言っていたらしい。部屋に戻ってから鍵をかけ、ドアの前にありったけの物を積んだが、怖くてよく眠れなかったという。
後で分かったことらしいが、Accommodation名の女性は奥さんではなく、掃除などの手伝いに来ている人だったとか。そして、これも後から気が付いたことだが、彼女に声をかけてきた時、おやじは少し酒臭かったようだというのだ。その時点で怪しいと思うべきだった。
ジャスパーのほとんどのPrivate Home Accommodationは安全だが、中にはこういう所もある。他の場所でもしかり。その時には自分で「何か変だ」と感づける普通の感性を、旅行中でも持ち続けてほしい。旅先では、いくら警戒してもし過ぎるということはない。一人旅の時は特にそうだが、2〜3人の安心感がかえってスキをつくることもある。少しでも危うさを感じたら、そちらへはなるべく近づかないことだ。
カナダは治安のいい国とされているが、犯罪は年々増えている。特にお金を持っている日本人、また上記のようなケースでははっきりNOと言えない日本人女性は狙われやすい。旅行中は心にスキをつくらないようにすることが大切である。