●バンフの山火事
ペイトー・レイクからの帰り、性懲りもなく、またレイク・ルイーズに寄ってしまった。午前中は湖畔からのベストシーンを見るために行ったのだが、帰りは少し湖畔を歩いてみようと思ったのだ。小雨がパラついていたが、私たちはシャトー・レイク・ルイーズを湖側から遠くに眺められる所まで、湖畔の遊歩道を歩いていった。この遊歩道はなかなかお薦めである。
駐車場へ戻る途中でシャトー・レイク・ルイーズの中へ入ってみると、メインロビーに今まで見たこともなかった立て札とロープが…。それによると“宿泊客以外はここより立ち入り禁止”となっている。
あとで知ったことだが、カナディアン・パシフィック(CP)系のホテルは、アメリカのFairmont Hotelsを買収・合併し、1999年よりFairmont Hotels & Resortsチェーンとして新たにスタートした。そのポリシーに従って、宿泊客のプライバシーを守り、高級ホテルに泊まっている雰囲気を楽しんでもらうために、一般客の締め出しに踏み切ったのだという。これはバンフ・スプリングス・ホテルも同様だ。
ただ、個人で行く人たちは大丈夫らしい。私たちもこっそり入ってしまったから。だって、あのロビーのアーチ型の窓から見るレイク・ルイーズはまた格別なのだ。
規制が厳しくなったのは、バス・ツアーやグループの旅行者に対してとのこと。この6月1日からだというから、できたばかりの規制だった。
さて、アイスフィールド・パークウェイのすべての観光を終えて、私たちはいよいよバンフに向かった。今日の宿はちゃんとB&Bを予約してある。
この先の橋を渡ればもうバンフの町、という所まで来た時、川の向こうの山から煙が出ているのが見えた。近づくにつれ、煙はどんどん濃くなる。
「えっ? 山火事!?」
どうやら本当に山火事らしかった。こりゃあエライこっちゃ。バンフはすぐ近くだから、延焼の危険性もあるかもしれない。
最近、カナダでは山火事が多いのだ。最も多い出火原因がキャンプ場の火の不始末やタバコだという。そして、なかなか消えないケースもある。
心配しつつ、橋を渡ってバンフの町に入っていくと、なんと町中が煙っている。山火事の煙が流れてきているのだ。窓をあけるとすごいにおいで、いぶされて薫製になってしまいそうだ。洋服にも染み着きそう。いよいよ火が近づいているぞー、ぎゃーどうしようーと思ったが、町は妙に落ち着いている。サイレンが鳴ったり、消防車があわただしく駆け抜けていくということもない。何なんだろう、この静寂は‥‥。
翌日、これは絶対新聞に大きく出ているはずだ!と思い、スーパーでアルバータの新聞を何紙か見てみたが、どこにも火事のことは載っていない。ローカルのページにも、何も書いていない。町の人は話題にもしていないし、テレビのニュースでもやっていなかった。
もしかすると、この程度の山火事はたいしたことないのだろうか?
そういえば、バンフに入る前の川べりの展望台では、のんきに見物している人たちがいたっけ。日本にも報道されるほどのニュースとなる出来事と思っていた私は、なんだか拍子抜けしてしまった。その後、バンフを出るまで、この山火事が地元の人に話題にされているのを聞いたことは、一度もなかった。