●州境の町ロイドミンスター
午後2時にウエスト・エドモントン・モールを出発。私たちは雨の中を、一路サスカチュワン州へのボーダーに向かった。
今まで訪れたところは、全部かつて来たことがある場所だが、ここから先はまったく足を踏み入れたことがない。私にとっては、まだ未知のカナダだった。だからとても楽しみにしていたのだ。
そして、州境はどうなっているのだろう?ということも関心の的だった。BC州〜アルバータ州は知っているが、あとは空路でしか越えたことがない。今回初めて陸路(or 航路)で全部越えるのだ。
5時近くまで走った。もう雨はやんでいる。
地図を見ながら「そろそろボーダーだよね」と言って、あたりをキョロキョロしてみる。私たちは一つの町に入ってきたようだ。ハイウェイ沿いにガソリン・スタンドやファーストフードのお店が立ち並んでいる。地方の交通拠点となる町特有の光景だ。
その時、シュテファンが「あーっ!」と叫んだ。指差す方向を見ると、平坦な町並みの中に、高くそびえ立つ真っ赤な鉄柱が見える。しかも数本。
シュテファンは、絶対これがボーダーだと言う。私は、いくらなんでも派手過ぎるんじゃない?と思った。なんだか工事現場の鉄骨みたいに見える。本当に工事をしているのではないかと思っていた。
ところが、これはシュテファンが大正解! 近くまで行ってみたら、本当にここがボーダーだったのだ。私は、さっきまで疑っていたことも忘れ、大興奮状態! こんなにドラマチックなボーダーは、想像もしていなかった。
ちょうどハイウェイを横切る形で州境ラインがあるらしく、その交差点にある信号機の支柱には、次のように書かれたボードが取り付けられていた。
Alberta
Saskatchewan
BORDER
そしてそのライン上に、赤い鉄柱が4本、並んでいたのだ。
あとで調べてみたら、この鉄柱は高さが100フィート(約30.5m)あるというから、それが4本並んでいる偉観ぶりは、容易に想像できよう。
車からおりてそばまで行くと、さらに感動的なことに、その鉄柱の台座にあたるコンクリート部分に、州境のラインが入れられ、アルバータ州とサスカチュワン州の紋章が、それぞれの側に付けられていた。
そして真ん中(州境ラインの上)には、一回り小さな紋章が入っている。それはこの州境の町=ロイドミンスターの紋章だった。
そうなのだ。このロイドミンスターという町、なんと2つの州にまたがって存在しているのである。町の中をボーダー・ラインが横切っているのだ。こういう町は、カナダでも唯一、ロイドミンスターだけだという。
しかし、行政はどうしているのだろう? カナダでは州ごとに違う法律もある。あっ、それに時差は? サスカチュワン州のほうが1時間早いはずだけど。・・・などといろいろ心配をしてしまったが、時差のほうは、州境でぱっと切り替わるわけではなく、時差の時間帯ラインは、また別に設定されており、このあたりはアルバータ州を中心とした「山岳部標準時」に属していることが分かった。法律も、基本的にどちらに従うか、おそらく決まっているのだろう。
それにしても、なんだか面白そうな町だ。
台座に付いていた町の紋章がまた面白く、気に入ってしまった。
中央の図柄の上半分は森林を表わしているようだが、下半分は、センターを鉄柱で仕切られ、左側は牛がいる牧場が(もちろんアルバータ州を表わす)、右側には穀物畑が描かれている(こちらはサスカチュワン州)。
私たちは「ボーダーを通るからパスポートを用意しなきゃね」「お金も換金しないと…」などと冗談を言いながら、この鉄柱のもとでしばし時間を過ごした。
これから先の州境越えにいっそう期待がかかったが、こんなにも印象的なボーダーは、今回のカナダ横断中ではロイドミンスターだけだった。
<後日談>
つい、先週の話である。CBCで、この州境の鉄柱が撤去されるというニュースを報じており、2人ともたいへんなショックを受けてしまった。
なんでも、強風が吹くと、この鉄柱が揺れるのだそうで(画面で見ると、確かにけっこう激しく揺れている)、このままだといつ大事故につながるかもしれないということで、市民の安全を考え、撤去されることになったそうだ。既に1本はもう取り壊されている。しかし、それを惜しむ市民の声も多い。
ロイドミンスター市では、この鉄柱を設計・建設した会社などに対して、法的措置をとるべく動き始めたそうだ。