●Accessible
日本では「barrier-free バリアフリー」という言葉は、もうかなり浸透していることだろう。私が日本にいる時には、まだほとんど聞かれなかったこの言葉、いったいいつ頃から世に出始めたのたのだろうか?
乙武洋匡くんの『五体不満足』を読んでみると、彼自身が初めて「バリアフリー」という言葉に出会ったのは、1996年11月のこととある。なるほど、私はもうカナダに来ている。言葉は既にあったとしても、乙武くんの著書がその急速な浸透を助けたことは、言うまでもないだろう。
実は「◯◯フリー」という言葉の使い方を、以前は知らなかった。「フリー」といえば即「自由」と思っていた私。カナダで初めて「Smoke-free」という表示を見た時、本気で「喫煙自由」なのかと思っていたのだ。ごていねいに、オフィスビル内や公共の場での禁煙が当り前のこの国だからわざわざ書いてあるのかな、とさえ思ったりしていた。今から思うとお恥ずかしい話である。
さて、その「バリアフリー」だが、バンクーバーで使っても、もしかしたら通じないかもしれないのである!?
事実、私が最初に使った時は、見事に相手のカナダ人に「???」という顔をされた。車椅子留学の取材に行った英語学校でのことで、相手は学校のディレクター氏だった。私は「バリアフリー」の意味を説明したのだが(どうして私がカナダ人に英語の意味を説明するんだか…)、彼は知らないと言った。
そこで私は、はたと考えてしまった。
「これって和製英語だったんだろうか‥‥?」
ご安心あれ。その後の調べで「barrier-free」という言葉は、ちゃんと存在することが確認できた。
しかし、日本で使われているような用途の場合、カナダでは「Accessible(あえてカタカナで書くと、アクセッサブル)」と表現されるほうが一般的だ。これは「近付きやすい、行きやすい」という意味である。
たとえば車椅子でも乗降できるバスには、車椅子マークと共に「Accessible Buses」というサインが付いている。他にも、段差をなくして車椅子でも通れるようになっている場所や車椅子で利用できる物には、この言葉が用いられている。たとえばaccessible building、accessible taxi、accessible transit systemなどという具合い。中にaccessible leisure and recreation opportunitiesという表現もあった。
そして、バンクーバーはこう呼ばれている。
“Accessible City”
だから、本当は、このコーナーのタイトルは“Accessible City”にしたかったのだが、そうすると今度は日本のみなさんが「???」になってしまうので「バリアフリー・シティ」にしたのである。
現在、バンクーバーでは、市の法律によって、学校、図書館などの公共の建物、オフィスビル、ショッピングモール、レストラン、お店、カフェなどは、すべてaccessibleでなければならないと決められている。その徹底ぶりは感心するほどで、新しく建築する場合はもちろん、法が制定される以前からあった建物や施設にも、何らかの形でaccessible機能を加えなければならない。たとえば、ビルの入口に数段の階段が付いている場合(古いビルはこういうデザインが多い)、その横に電動リフトを設置するか、別にaccessibleドアを設け、そこへの案内板を付けなければならないのである。
こういった面にプラスして、accessible transit system(交通機関)も徹底されているのだから、車椅子でも一人でどんどん外出できるのは、当り前と言えば当り前である。
このように、市全体でのバリアフリーに対する取り組みが一貫し、きちんと実行されていることが、バンクーバーが“Accessible City”と呼ばれる由縁であろう。
しかし、これとて一朝一夕にできあがった訳ではない。
次週は、バンクーバーが“Accessible City”となるまでの歴史に触れてみたいと思う。
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