●ビルの内部
私は基本的に日本の出版社の仕事をしているのだが、時々こちらの日本語情報誌(紙)に記事を書いたり、翻訳会社から仕事をいただいたりしている。といっても、翻訳そのものは私の専門ではないので、翻訳者が訳した文の校正・校閲と文章チェックというのが、私の仕事の内容だ。
その会社は家から5ブロック、歩いて10分とかからないところにあるので、お声がかかれば、すぐにとんで行ける。ダウンタウンのオフィス街ではなく、キツラノ地区の静かな住宅地に近い場所に2階建てのきれいなオフィスビルがあり、その2階のほとんどをその会社で占めている。
昨年の春、久しぶりに大きな仕事をいただき、喜んで出かけていった。
そのビルは、正面のガラス張りのドアを開けると、目の前に階段がある。螺旋とまではいかないが、まっすぐではなく、優雅にカーブしている階段なのだ。その階段を一目見た時、思った。
「ん? 何か違う!」
階段の手すりに、何やら大きな装置がくっついていたのである。
「何だろう、これ‥‥???」
そばに行って見たら、すぐ分かった。車椅子のマークが付いていたのだ。
「あーあ、車椅子用のリフトなんだ!」
階段の下には折り畳まれたリフトが、平たい長方形の箱のようになって、邪魔にならないような感じで、手すりに付いていた。リフトが移動するパイプが、手すりにそって同じカーブで2階まで延びている。その終点には、モーターが入っているボックスが取り付けられていた。
私は妙にうれしくなった。ちょうどバリアフリー留学の記事を書き終えた頃だったのだ。このビルのオフィスもAccessibleになったのである。ビルの入口と同じで、誰もがこの2階のオフィスで仕事ができる状態でなければならないのだ。それがバンクーバー市の法律で定められたことだった。その規定に従って、リフトを設置したのである。
後に、このリフトと同じタイプのものを、何度か目にしている。
その一つは、カナダ横断旅行で訪れたトロントのユニオン駅だった。VIAが到着したプラットフォームから、地下の通路に下りる階段に、設置されていたのである。場所もとらないし、簡単にAccessible機能を取り付けられるので、このリフト、需要が増えているのかもしれない。
|