●テリー・フォックス(1)
カナダで、障害者に対する人々の意識を大きく変えた人が2人いる。それはテリー・フォックスとリック・ハンセンだ。おそらくカナダ人ならほとんどの人が、彼らの名前を知っているだろう。
私がテリー・フォックスのことを初めて知ったのは、まったくの偶然からだった。
まだESLに行っていた頃、学校から帰ってきて、何気なくテレビをつけ、そのまま部屋の片付けをしていた。1人暮しの時、私はいつも、特に見るわけでもないのに、テレビをつけっぱなしにしていることが多かったのだ。
すると、画面から不思議な足音が聞こえてきた。走っているでもなく、歩いているでもない、不思議なリズムだった。
タンッ・タ・タン、タンッ・タ・タン、タンッ・タ・タン、・・・
その足音は、このように聞こえた。
テレビを見ると、少し古そうな、カラーもあまり鮮やかでない映像の中に、1人の青年が、夕暮れのハイウェイを走っているシルエットが見えた。彼はもう車さえ少なくなったハイウェイを、黙々と走り続けていた。そのシルエットの右足は不自然に細かった。
彼がテリー・フォックス。その異常に細い右足は、骨肉腫で失った足の代わりに付けられた義足だった。
彼が走るリズムは、タンッ・タ・タン。
タンッで左足に体重をかけ義足をあげて踏み切る。タで左足が着地し、右の義足を前に進ませて、タンで義足が着地する。次に義足に体重をかけて、左足が一歩あるく様に前に出て、タンッからまた繰り返す。あまり速そうには見えないが、彼が“走ろう”としていることは明らかだった。
気がつくと、私は片付けをやめて、テレビに見入っていた。
この人は誰なんだろう?
いつ頃の映像なんだろう?
何のために走っているんだろう?
・・・さまざまな疑問が、次から次へと湧いてきた。
彼の義足が着地する時、義足を装着している太腿の付け根の部分が痛むのではないかと、それも心配になった。
結局、私はその番組を全部見てしまった。見終わった時、両眼はもうウルウルだった。ラストに流れていた曲「He Ain't Heavy, He's My Brother」のメロディーと歌詞が、あまりにも彼の道のりとぴったりで、せつなかった。
わずか30分の番組だったが、その印象はずっしりと重く、この時からテリー・フォックスの名は、永遠に私の心に刻まれることとなった。
★‥‥‥‥‥‥‥‥‥★バンクーバーだより★‥‥‥‥‥‥‥‥‥★
☆『五体不満足』の著者、乙武洋匡くんのお父さんが亡くなりましたね。まだ60歳とお若かったのに、残念でなりません。私はあの本を読んで、乙武くんも魅力ある人物だけど、ご両親はなんて素晴しい方たちなんだろう!と思っていました。あのご両親だからこそ、彼があんなにのびのび育ったのでしょう。
3月に結婚した乙武くんを見て、きっと安心して旅立たれたことと思います。ご冥福を心よりお祈りいたします。
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