●チューリヒのバリアフリー事情
クリスマスとお正月を過ごしたスイスで、障害者のための設備やシステムをいくつか目にした。特に取材しようとしたわけではないが、バンクーバーでも日頃気にかけているため、それらが発する信号を敏感にキャッチするようになったらしい。
最初に気付いたのはバスだった。
夫の家はチューリヒ郊外にあり、ダウンタウンまではバスで10分位。バス停で待っていると、やってきたのは、以前乗ったのとはまったく違う、新しい車体のバスだった。
「あ、Kneeling busみたい!」
(2000/11/28「『ひざまずく』バス」の項参照)
そうなのだ。床が低く、段差をなるべく少なくするよう作られたKneeling busそっくりの車体なのである。入口は3カ所あり、料金は前から乗ってドライバーに払うか、中央から乗ってあらかじめ持っていた回数券に日付・時間を刻印する。定期券の人は、特に見せる必要はない。バスの前半分は床が低く、後ろは一段高いところに座席がある。その真ん中にシートのない広いスペースが設けられている。そこに立って、車内を見回してみた。
「これは絶対Kneeling busだ。じゃあ車椅子の人はどこから乗るんだろう?」
前から乗ると、料金を払って後ろに行く時にバーがあるので、そこを車椅子で通過するのは不可能だ。Kneeling busは最前列のシートが上に上げられる仕組みになっているが、このバスはそうではないらしい。
「どこかに車椅子用のシートがあるのかなあ?」
夫に話しかけると、私と向かい合うように立っていた彼が気付いた。
「あっ、ここだ」
なんと私が寄りかかっていたバスの側面に、車椅子のマークが付いていたのだ。
つまり、中央のシートのない広い部分が、車椅子やベビーカー用のスペースだったのである。
しかし、中央のドアには、リフトもランプもなかった。どうやって乗るのか、その時だけドライバーが助けるのか、今だに分からないが(ドライバーに聞いてみようと思っていたが、忘れて帰ってきてしまった)、これも一応Accessible Busには違いない。
もう一つ、HandyDARTのようなミニバンも見かけた。バンクーバーに戻る日、車で空港に向かっている時にすれ違ったのだ。車椅子マークが付き、中に女性が一人乗っているのが見えた。明るいクリーム色の車体で、バスなのかタクシーなのかまでは分からなかったが、坂道の多いチューリヒでは便利そうだった。
そうなのだ。チューリヒは坂道や石畳、階段や段差が多く、車椅子の人はたいへん動きにくい街なのである。事実、今回は一度も車椅子の方を見かけなかった。
そもそもチューリヒのような街とバンクーバーでは、全然都市事情が違う。
チューリヒは2000年以上の歴史をもつ古い都で、紀元前、ローマ人によって作られた要塞も残っている。逆に言えば、要塞を作って防御しやすい、丘や湖・川がある所に街が開けたのである。
しかしバンクーバーのように、防御の心配のない時代に、平地に作られた都市は、道路も広くできるし、改造も比較的容易なのだ。
日本の都市は、チューリヒに近いタイプが多いと思う。
さて、お雑煮用の食材を買いに、日本のグローサリー・ストアに行った時のこと。『スイス便り』という日本語のフリーペーパーがあったので、もらってくると、こんな記事がでていた。
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■盲人スノーボード教室
20年前にサンモリッツで始まった盲人・視覚障害者対象のスキー教室は大きな反応を呼び、諸外国もこれに習って、今日では方々で成功を納めている。今冬からはスノーボード教室も開かれることになった。他のスキーヤーが留意して滑ってくれるよう、障害者には特別ウェアが渡され、先生と生徒はヘッドフォンをつけて無線交信のレッスンなど、安全対策と工夫が凝らされている。スキー学校では、援助基金を設けて盲人への大幅な料金割引を実施。
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まだ始まったばかりらしい公共バスのバリアフリー化に比べ、こちらはもう20年もの歴史があった。
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