●私が20代だった頃
現在、カナダに来る日本人留学生は、年間約6,000人である。しかし、これはビザ発給数に基づく数字なので、ビザがいらない3ヵ月以下の留学生を含めると、その数は8,000〜9,000人になると推定される。
加えてカナダにはワーキングホリデー・メーカーが来ている。ワーキングホリデー・ビザの発給枠は、昨年から増えて5,000になっており、毎年抽選と聞いているので、こちらは5,000人全部が来ているのだろう。
私が20代の頃は、ワーキングホリデーなんて便利な制度は、一般にはまだほとんど知られていなかった。円高も今ほど進んでいなかったし(1US~台だったことも…)、海外旅行はまだパッケージツアーが主流で、料金だってそう安くはなかった。格安航空券なんて名前も聞いたことがなかった。海外旅行は一生に一回モノ(こりゃちょっとオーバーですが…)、留学はお嬢さま・お坊っちゃまがすることだった。
1985年の「プラザ合意」以降、円高が急激に促進し、日本はバブル経済期に入る。架空の好景気に浮かれるなか、海外ツアー料金は下降の一途をたどり、誰でも簡単に海外へ行ける時代になってしまった。海外へ行ってはブランド品を買いあさる日本人の姿が、世界中どこでも見られた。遠い憧れのような存在だった留学も、同様に特別なことではなくなり、誰にでも手の届くものになっていた。
「よぉーし私も!」と思ったときは既に30歳。年齢、仕事、結婚、家族‥‥、手かせ足かせは20代の頃より多いような気がした。
それでもエイッと旅立った向こうには、30代で留学してよかったと思える自分がいたのである。
●30代でこそ行くべき!
そりゃあ、若い人たちを羨んだことは多々あった。手元に充分なお金がなくても現地で働けて1年は滞在できるワーキングホリデー制度、しかも3ヵ国(カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)全部行くこともできる、帰ってきてもまだ若いから再就職先探しがラク、この頃から人材派遣業界も大発展‥‥などなど、20代であるだけでこんなに有利!?と思えることばかり、世の中にごろごろ転がっていた。
しかし、発想を転換してみると、大きな誘惑もなく地道にコツコツ働くしかなかった私の20代は、後の30代留学に大いに役立った。その10年間で得た経験、知識、技術、人脈は、そういった年月を積み重ねていない人のそれとは比べようもなかった。これはすべて留学してから気づいたことだ。
最も大きな違いは、精神面での強さであろう。10年間、日本のビジネス社会で揉まれ続けてきたのだ。人との関わり方や、自分の感情への対処の仕方など、一通りのことは経験済みである。言うなれば、社会生活の基礎編は充分クリアして、応用編もさまざまなケースを習得しつつある、といったところだった。海外で応用がきかないはずはなかった。
細かいことは後にゆずるとして、自分自身に関して思ったことは「あー30代で来てよかった」ということだった。私にとっては、30代がベストの“時”だったのである。
この“時”は、たぶん人によって違う。
今もしあなたが「留学したい」と強く考えているならば、それはおそらく、あなたの“時”が近づいているのだろうと思う。