●留学生のメンタルヘルス---私の場合(3)
体調にまで影響を及ぼした心のストレスとは、おそらく「日本語をまったく使わなかったこと」からきていたと思われる。
専門の心理カウンセラーなどに相談したわけではないので、自分の推測でしかないが、友人らと思いっきり日本語で話した後、モヤモヤしていた気持ちがスッキリしてしまったところを見ると、そうとしか思えなかった。
その時、私が気付いたことは“日本語を話さないということがこんなにも目に見えないストレスになっていた”ということと“自分を過信してはいけない”ということだった。
考えてみたら、私はそれまでの30数年間、日本語の中だけで暮らしてきたのだ。話すのも聞くのも読むのも書くのも、心の中で考える時も、すべて日本語。それがこの1カ月半は、ほとんど日本語で話すということをしていなかった。
驚いたのは、私自身が望んでそういう環境に身を置き、能動的かつ主体的に日本語を排除して、英語だけの生活にどっぷり浸るようにしていたのに、それでも心にはかなりのストレスがかかっているということだった。
無理やりそういう生活を強いられたら、そりゃあストレスになるだろう。でも私の場合は自分でそうしたかったのだ。だから、大変ではあっても、ストレスフルではないはずだと、無意識のうちに思っていた。実際、そういう生活をエンジョイしていたし‥‥。
しかし、人間の心というのは本当に素直なものである。頭ではそう考え、確かに生活を楽しんでもいたが、その一方でかなりのストレスがかかっていたことに、心は素直に反応していた。
そして、身体はさらに正直だった。心のストレスを排除してくれない主に対して、身体の不調という最も気付きやすい方法で訴えてきたのである。
長い間、日本語で思う存分話していないというストレスは、相当なものであることに、私はこの時初めて気がついた。
同時に、それまで日本でかなりストレスフルな生活にも耐えて乗り切ってきたので、多少のストレスは何でもないと思っていたが、そういう自分への過信は禁物であることも強く感じた。
このストレスは、今までのものとは“異質”だったのだ。生まれて初めて体験したストレスだったのである。それに対して、私の心はまだ免疫ができていなかった。
この時から無理をし過ぎないようにした。
自分の中での“日本語規定”(=日本語をできるだけ使わない)を少しゆるめた。多少のストレスやプレッシャーは、頑張れるバネになるが、かけ過ぎてポッキリ折れてしまったら元も子もない。留学生活はまだ始まったばかりなのだ。
心のストレスの要因は、人によってまったく異なる。私と同じ状況下になっても、このようなストレスを感じない人はたくさんいるだろうし、また他の人が感じるストレスを、私は何とも思わないかもしれない。
大事なことは、心や身体の異変に気付けることと、それに対処してあげられる自分がいることだ。
30代留学は、思いのほか心配事が多く、英語以外でもストレスとなる要素がたくさんあるのである。