●父の経過
心筋梗塞で倒れて入院した父は、1週間、絶対安静だった。だが、意識はすぐに回復していた。
困ったのは安静にしていてくれないことだった。自分でもそんなことになったのがショックだったらしい父は、ことさら元気をアピールしようとして、起き上がってしまうのだ。家族はハラハラだった。かといって、はっきり病状を告げたら、もっとショックを受けるであろうことが分かっているので(男親とはそういうものだ)、なだめたりさとしたりして、なんとかベッドに寝ていてもらうように、そして目を離さないようにしていた。
1週間が過ぎた。その間、あらゆる事態を想定して、心の準備をした。
元来健康だった父の経過は良好で、再検査の結果、危険な時期は脱したとのこと。ただ、もう少し回復するのを待って、専門病院に移って検査する必要があった。
4週間たって、その専門病院に入院。精密検査の結果は、想定した最も良い状況より、さらに良いものだった。家族全員がようやく胸を撫で下ろした。
退院の日はみんなで迎えに行ったが、それはクリスマスの夜だった。病院の駐車場で車を降りると、身が縮むような寒さだった。思わずコートの襟を立てると、この寒風の中で歌声が聞こえる。ふと見ると、病棟の下にキャンドルを手に賛美歌を合唱している一団がいた。近くの教会から来た人たちらしかった。
寒さにもかかわらず、多くの窓が開き、パジャマ姿の入院患者たちが合唱隊を見下ろしていた。小さな子供もいた。曲が終わるごとに拍手が起こった。私が今まで見たこともない、ささやかなクリスマスのシーンだった。胸に熱いものが込み上げ、母や妹の前で涙をこらえるのが大変だった。
こうしてクリスマスやお正月を病院で過ごさなければならない人がたくさんいる。なのに父は今日退院できる。お正月を自宅で過ごすことができる。ここまで回復したこと、軽いレベルの心筋梗塞であったこと、父の生命力など、すべてに感謝した。
この年のクリスマスは、たぶん一生忘れないだろう。
自宅での生活を始めてからも、まだしばらくは様子を見なければならなかった。私は父の経過と家族の生活と仕事に集中した。
桜の便りが聞かれる頃には、父の生活はすっかり元に戻っていた。