●不幸の実例
私がこのようなテーマについて考えるきっかけとなった実例をご紹介しよう。プライバシー保護のため、詳細には書けない部分もあることはご了承いただきたい。
これはカナダ人男性と結婚した日本人女性のケースである。
その女性を仮にA子さんとしよう。A子さんは、バンクーバーで結婚し、夫婦で市内のコンドミニアム(日本でいうマンション)に住んでいた。
やがて妊娠したA子さん、外国での出産は不安もあったので、日本に帰って生むことにした。妊娠後期に帰国し、出産。赤ちゃんの首がすわり、飛行機での移動も心配ない時期まで待って、バンクーバーに戻ってきた。
この間、カナダを離れること約5ヵ月。もちろん、夫とは電話やFAXでずっとやり取りをしていた。
ところが、バンクーバーの我が家に帰ってみると、そこには何と見知らぬ女がいて、夫と暮らしていたのである!
我が子を初めてパパに会わせることができる、夫の喜ぶ顔が見たい、と幸せの絶頂で帰宅したA子さんは、一気に奈落の底に突き落とされる。
この女は誰? いつからここにいるの? 彼はどうしてこんなことを!?
A子さんは夫と話し合ったが、埒があかなかった。夫はその女が恋人であることを認めた。しかし、A子さんが帰ってきたからといって、女を出て行かせようとはしなかった。女も居座り続けた。
法的処置に訴えたくても、どうしていいのか分からない。乳飲み子をかかえたA子さんは、困って日系コミュニティーのある相談室に悩みを打ち明けた。それが、私がA子さんのケースを知ることとなった経緯である。
日本では、実家に戻っての出産はよくあることだが、カナダではこんな結果になってしまうこともある。しかも、法的に、必ずしもA子さんが有利にたてる訳ではない。たとえば、このコンドミニアムがA子さんの名義だったとしても、このような事態になったからといって、彼らを追い出すことができない場合もある。ケース・バイ・ケースだが、一般にカナダの法律では、結婚してずっと住んでいた夫にも、最低5%くらいの家の取り分は認められる。つまり夫にも住む権利があるのである。
これは数年前に実際にあったことだが、こういった例が決して珍しくはないことが、その後だんだん分かってきて、私は愕然とするのである。