●食べ物について(1)
「年をとると自分が育った食べ物に戻る」という話を聞いて、急に老後が不安になったという国際結婚妻がいた。国際結婚カップルにとって、家庭での食べ物は大きな問題なのである。
私が知ってるカップルも、それぞれパートナーのお国の味を受け入れるため、いろいろ努力している。
ご主人がヨーロッパ出身のあるカップルの場合、彼もお料理が好きでよくキッチンに立つのだそうだが、どうも野菜料理はいただけないらしい。ヨーロッパでは、野菜をクタクタに煮てしまう料理が多いからだとか。たしかに我々日本人には、野菜炒めなど少しシャキシャキ感が残っているほうが好まれる。
キャベツがおいしい冬になると、ご主人は「よーし!」とばかりに張り切って、キャベツを大量に買い込み、山のようなザワークラウトを作るのだそうだ。「困っちゃうのよねー。私、あんまり好きじゃないのよ」と言いながら、なんとかその山を小さくしようと努力している彼女の姿が目に浮かぶ。もちろん、ご主人には「好きじゃない」なんて一言も言ってないはず。
アジア人同士のカップルでも、いろいろ問題はあるようだ。ご主人が香港出身のカップルの場合、彼がけっこうグルメなので、奥さんのほうもおいしい中華をマスターしようと頑張っているらしい。バンクーバーには25万人もの中国系の人が住んでいるので、食材に関しては、ほとんど本国と同じものが手に入る。ところが、その食材が豊富すぎる中華料理。今までお目にかかったことがないような材料や扱い方が分からない食品、使い方を知らない調味料がたくさんあるのだ。
ある日、丸ごとのチキンを買ってきたご主人、奥さんはとりあえず見よう見まねで料理をして、テーブルに出した。ところが、そのチキンにコウモン(お食事中の方、すいません)が付いていたのだそうだ。香港では、その部分をカットして料理するのだが、そんなことは知らない彼女。知っているだろうと思っていた彼。お皿にのったコウモン付きチキンを見て、烈火のごとく怒りだした。
「俺にこんなもん、食わせる気かあーっ!?」
そして、ジョーダンではなく、あやうく離婚になりそうになったとか…。
今は“笑い話”になっているのでよかったのだが、このように、まったく違う食文化の中で育ってきた2人が、結婚して、2つの食文化をミックスした独自の「家庭の味」を作っていくのは、けっこう大変なことなのである。
ところが、こうやって努力しているカップルばかりではないのだ。驚くような話も、実際聞いている。