●生活様式の違い---キッチン編
先週の食べ物に関連する話である。
我が家は何でも食べる2人なので、食べ物でお互い困ったことがないということは既に書いた。もちろん、そのことで議論するなんて皆無だったが、実はキッチンのあることについては何度も議論しているのだ。私がきれそうになったこともある。
うちでは、私はあまり冷たい物を飲まない。もっぱらお茶かコーヒーだ。だから私が使うのはほとんどマグカップ。逆に彼は熱い物を飲まず、お水かオレンジジュースばかりなので、コップを使うのは彼だけだった。
ところが、いつもテーブルの上やキッチンに、やたらコップが出ているのである。ひどい時には、我が家の6個セットのコップが、全部出払っている。変だなあ?使う人間は一人なのに…と思いながら、せっせと洗っておくと、また30分もしないうちに、2〜3個はテーブルまわりに出ている。私はまたせっせと洗わなければならない。
これはおかしい!と思って、ある日、彼の行動をそーっとうかがっていると…。
その理由が分かった。彼は次から次へとコップを出して使っているのだ。たとえば、5分前にお水を飲んだコップがそこにあるのに、ジュースを飲む時にまた新しいコップを出し、その後また何か飲む時に、また・・・という具合い。私だったら、5分前に使ったコップなら、ささっと洗ってそれを使うが、彼はそうではなかったのだ。
そこで彼に言った。
「ちょっと前に使ったコップなら、またさっと洗って使ってよ。そうじゃないと、私はいつもコップを洗ってばかりいることになるから」
一応彼は納得するのだが、相変わらず、次から次へと、出しては使い、出しては使い・・・。
ついに私はきれる寸前になった。
「私はあなたの皿洗い機じゃないっっっ!!」
その言葉にハッとした。
皿洗い機・・・
そうなのだ。彼の実家には、皿洗い機があるのだ。欧米でホームステイをしたことがある方なら経験があると思うが、ディッシュ・ウォッシャー(こちらのはまたデカくて容量が多い)を使う際は、なるべく食器類をいっぱいにして起動させたほうが経済的なので、使ってはディッシュ・ウォッシャーに入れ、また使っては入れていく。そうして、1日か2日に1回起動させて洗うのだ。彼はそんなキッチン環境で、ずーっと育ってきた。
一方、私は普通の日本の家庭で育ったから、もちろんディッシュ・ウォッシャーなんぞはない。使った食器は手で洗う、この方法しか知らなかった。
さらに一人暮しをすると、その方法も少々変わってくる。私は長いこと、仕事を2つ持っていたので、めちゃくちゃ忙しい生活をしていて、ちょっと油断するとすぐ流しに食器がたまってしまった。だから、まず、なるべく洗い物を出さないようにした。マグカップなどを使いたい時、洗った食器類がまだ洗い物カゴ(という名前だったっかな?)に伏せてあったら(自然乾燥のほうが好きなので)、そこから使う。少し前に使ったカップが置いてあったら、さっと洗ってまた使う。
スーパーのパック物はあまり好きではなかったが、買ってきた時は、パックごと出さずにお皿に盛り付けることはやっていた。それでもお皿の数は少なめにするよう心がけていた。
そんな一人暮しを、私は“達人”になるくらいまで続けていたが、彼の一人暮し歴は短かった。日本とスイスのキッチン環境の違いに加え、個人の経験差がさらにプラスされたわけだ。なるほどなあ、と思った。
年末年始にスイスに行った時、これまたそっと観察していたのだが、やはり出しては使い…だった。これは彼だけでなく、家族みんながそうだったのだが、早くディッシュ・ウォッシャーをいっぱいにして洗わないと、汚れが(ウォッシャーに入れる前にさっと流しているが)乾いてこびりつき、落ちにくくなってしまうため、少なくとも2日に1回は起動させたほうがいいのだ。だからどんどん使っては入れていく。この習慣が抜けなかったんだなぁと分かった。
彼には、そういった私の発見(?)を説明し、うちにはディッシュ・ウォッシャーがないんだからと協力を求めた。
で、どうなったかというと、さすがに使うコップの数は減ったものの、相変わらずいつも3個はその辺に出ている。しかし、あんまりガミガミ言うのもいやなので、もうあまり要求しなくなった。私の仕事が忙しくなると、彼が洗い物を片付けてくれることがあり、そうそう言えなくなったというのが本当の理由に近いかもしれない。そういえば、夫がこのように手伝ってくれるのも、キッチン事情の違いの一つである。