●コミュニケーションの問題(2)
前回は、日本とカナダの文化におけるコミュニケーションの手法の違いについて書いた。言葉の表現を重んじ、言葉でのコミュニケーションを主体とする西洋文化に対し、日本人のコミュニケーションは、言葉で言わなくても分かり合えることを良しとしている文化である。まず夫婦間で最初にぶつかる壁は、このコミュニケーション法の食い違いによる問題であることが多い。
国際結婚ワークショップに毎回来てくださっている精神科医、野田文隆先生のコメントは興味深かった。
日本人妻をもつカナダ人男性から、最も多く聞かれる言葉は「どうも妻のことがよく分からない」だそうだ。「妻が時々むくれてしまうが、その理由が分からない」という。彼らにしてみたら「不平・不満があるなら、話すのが当然」なのだから、夫に何も言わないでただむくれているという行為は、理解できないのである。
一方、妻側は「いちいち言わなくても傍で見ていれば分かるはず」と思っている。
“妻の不満”には、カナダに来て私だけが大変な思いをしている、友達がいなくて寂しい、日本語で話したい、家事・育児が大変、疲れている…などのほかに、「夫は何も気づかない」も含まれており、不満がますます増幅してしまうのだ。
そこで夫は“Let's talk.”と切り出す。彼にとっては、これが唯一の解決法だからだ。しかし、疲れているところに持ってきて、英語で説明しなければならない(それも、幾重にも積み重なった感情を)となると、これがまたストレスになってしまう。そして反発を感じたり、イライラしてしまったりする。
野田先生は、こういった傾向を「“Let's talk.”アレルギー症候群」と呼んでいるそうだ。
解決策は、お互いの文化を理解しようとする気持ちを持って、双方から歩み寄るように努力するしかない。たとえば、妻だけが、なるべく言葉で表現するように態度を改めても、それだけでは不充分。夫が「よしよし、彼女もだいぶ話すようになってきた」と思ってしまっては、たぶん本当の解決にはならず、またいつか根本的な問題が表面化してくることになるだろう。
国際結婚の場合、住んでいる国の文化に合わせて生活することが多いので、夫の国であるカナダに住む夫婦の場合、妻にカナダの文化やライフスタイルに適応することを求めているケースがよく見受けられる。しかし、こういうカップルこそ、2人の間では、より相手の文化や国民性を理解してあげていないと、自国を離れている方のみに心の負担がかかることになる。
少なくとも、妻が黙ってしまった時は、何も言うことがないのではなくて、言いたいことが山ほどあるのだということを、カナダ人夫には教えてあげたい。
でも、これって、国際結婚ではないカップルにも言えたりして・・・