●コミュニケーションの問題(3)
つい先日、NHKの国際放送を見ていたら、「スタジオパークからこんにちは」に、ピーター・バラカンさんが出ていた。イギリス人のバラカンさんは、大学で日本語学科だったそうだ。音楽の仕事をしたいと思い、日本に来て、勤め始めた会社で奥様と知り合い、国際結婚をした。現在は男女2人のお子さんのパパである。
日本語がぺらぺらで、話し方や物腰もなんとなく日本的な雰囲気がするバラカンさんだが、奥様とつきあい始めた頃は、やはり文化の違いというものをかなり感じたそうである。
たとえば、イギリス人のジョークやユーモア感覚は、日本人のそれと全然違う。そういう違いをまだ理解していなかったため、彼女を笑わせようとして言ったジョークで、逆に怒らせてしまったり、傷つけてしまったこともあるそうだ。日本という異文化の真只中にいたバラカンさんだが、奥様にとっても、バラカンさんとの出会いは異文化との遭遇だったのだ。
ところが、奥様がイギリスへ短期留学した後は、2人の間を流れる空気がガラッと変わったという。彼女の理解度がぐんと深まり、以前のような“噛み合わなさ”がなくなった。
それは、バラカンさんの生まれ育った文化の中で生活することにより、言葉や知識だけでなく体中でイギリスを感じ取ることができたのと同時に、異文化の中にたった1人で身を置く大変さも体験してきたからだと思う。
バンクーバーの国際結婚カップルの中でも、カナダ人夫が他国で長期滞在した経験をもっていると、日本人妻への思いやりもずいぶん変わってくるようだ。
カナダには、ワーキング・ホリデーやジェット・プログラム(日本の文部省による英語教師招致プログラム)によって、日本に1〜2年ほど住んでいた経験をもつ人が意外に多い。日本で知り合ったというカップルも少なくない。彼らは、言葉や文化の違う国に住むことのストレスを体験しているので、結婚してカナダに移住することになった妻の心情も、ある程度は理解できるのである。ところが、そういう経験がないパートナーの場合は、妻の孤独や憂鬱をなかなか理解できない。
国際結婚カップルが夫婦間でスムーズなコミュニケーションを取るには、まずお互いのバックグラウンドを理解しあうことが大切である。パートナーの国を訪れることができなくても、理解したいという気持ちがあれば、本やインターネットでいくらでも情報がとれる。
バラカンさんの奥様の場合は、彼の生まれ故郷に長期滞在することによって、そのバックグラウンドを一気に肌で感じ取ってきた。バラカンさんは既に日本に住み日本文化に適応していたので、奥様がイギリスを知ることによって、お互いに理解が深まり、スムーズなコミュニケーションが可能になった好事例であろう。