●移住に関わる問題
国際結婚にもいろいろなケースがあり、日本に住んでいるカップルも多いと思うが、バンクーバーで最も多いのは、以前にも書いたように、妻が日本人で夫がカナダ人というケースだ。当然、妻は日本から移住してくるわけだが、それに伴う問題が妻側にストレスを生じさせることも多い。
1997年4月に開かれた「国際結婚ワークショップ」第1回の記録に、その問題が垣間見られる。
3人のパネラーのうち女性2人が共に指摘していたのは、結婚を機にカナダに移住しなければならず、日本で積み上げたキャリアを諦めなければならなかったということだった。2人とも日本でやりがいのある仕事をしていたが、カナダではそれと同様の機会を得られなかったのである。これは、就職できなかったという問題ではなく、職種あるいは仕事そのものがここにはなかったのである。
うち1人の女性は「天職と思えるような仕事を辞めてカナダに来ることになりました」とのこと。う〜ん、私にはこんなすごい決断、できるかどうか‥‥。
このような場合、仕事をしたいのに見つからないというフラストレーションが生じる。日本でのキャリアをここでは認めてもらえない、維持できないというジレンマも生じる。
加えて、夫の国に住んでいるので、どうしても夫に頼らなければならないことが増える。すると、夫婦間に微妙な力関係が生じる。これは、妻がどんなに英語が堪能でも起こり得ることであり、ましてや英語が不得手な場合は推して知るべしである。
パネラーのお1人は翻訳者なので語学には何の問題もないわけだが、それでも自国を出ているほうがハンディを負うことになると述べている。
そんな妻の苦悩を夫が理解しきれていないと、「私はキャリアを諦め、家族とも友人とも離れてカナダへ来ているのに…」という不満がたまってしまうのである。
それもアナタの選択でしょ、とは言わないであげてほしい。こういう形で異文化の中に住むことになった人の心のストレスは、他人には計り知れないものがあるからだ。
この点、移住者同士の結婚の場合は、妻と夫の立場は対等である。2人とも自国と家族を離れて来ており、移住地でのさまざまな出来事に対処していくには、2人で力を合わせなければならないことが多い。ただし、お互いの母国語ではない英語で話しているカップルがほとんどなので、コミュニケーションにはより一層の注意と配慮が必要となる。
私は移住者同士のケースに該当し、自分で選択して既にカナダに移住していたし、仕事もフリーランスだったので、パネラーの方たちが直面したような問題にはほとんど無縁だったのだが、それはそれでまた別の問題があったりする。国際結婚にさまざまなケースがあるように、問題点もまたさまざまなのだ。